エルメスの最先端マーケティング。

「エルメスの映画に参加しない?」と言われたら、誰だって2つ返事でOKするだろう。

「国立新美術館でエルメス、しかも映画を観るのではなく参加できる」
HPを見ても、このくらいのざっくりした事しかわからない。
どんな体験ができるんだろう?とワクワクしながら、この謎めいたお誘いに足取り軽く出かけてみた。

今、国立新美術館で「エルメスが送るシネマ体験『彼女と。』」という触れ込みで、エルメスの展覧会が行なわれている。(2018年7月30日まで)
完全予約制の無料イベントで、「アクター」と「エキストラ」の2種類から選択して応募する。
私たちは「エキストラ」で申込み、内容がよくわからない中、「エルメスだしー、間違いないよね」とブランドを完全に信じきって参加した。

展覧会と称してはいるが、短編映画を撮影するシーンをいくつか見学するというものだった。
シーンごとにエルメスの商品を着たモデルや、小物が飾られたシチュエーションが用意されている。
エキストラとして、声で映画参加する場面もあり、ただただ見学するだけではなく、飽きさせない工夫がされている。
映画のストーリーは平凡なもので正直覚えていないが、部屋の中、お店、自然の中、街中など、様々な美しいシチュエーションを楽しめるようになっていた。
撮影機材は、おそらく本当に映画撮影で使うような本格的なもの。そのあたり、流石にエルメスだけあって手抜かりはない。モデルさんだけでなく、撮影スタッフもとても感じの良い美しい人たちだった。

「シーン①で使っていた小物」という感じで、楽屋裏に見立てた空間に衣装を並べてあったり、ところどころ、エルメスの商品が優雅に並ぶ。
女優ミラーにメイク道具が置かれていたり、ラックに衣装が並べてあったり、、、。
まぁ、控えめに言っても、素敵すぎてめまいがするほどの空間だ。

最後にエルメスがプロデュースしたお部屋があり、ここもため息ものであった。
決して古すぎず、しかし伝統を重んじ、また最新のアート感覚を入れながらも落ち着いたお部屋だった。
今回の展覧会すべてを通して感じた事ではあるが、伝統と革新を見事に表現しており、エルメスの新たな一歩を感じさせるものだった。

結局、映画撮影を見学するというアート体験を通じて、エルメス商品を脳裏に焼き付けられた。
それは、もちろん嫌な感じはなく、上質なものを見学できる心地良さに包まれる時間だった。

いやー、このブランディング力は半端なく素晴らしい。
すっかりエルメスの虜になり、会場を出る頃には、とりあえず何かエルメスの商品が欲しいと思った。
単調な展覧会ならここまで記憶には残らないし、商品の展示会であれば、上顧客向けの販売会の域を脱しない。
アートや映画というキーワードから多くの人を集め、来場者へエルメスのブランドイメージを力強く植えつけることができたイベントではないだろうか。

顧客の時間をいかに占有するかがマーケティングの鍵だが、時間だけでなく、空間まで占有され、濃密な初めての体験という刺激を受けて、エルメスに心と脳まですっかり占有されてしまった。

圧倒的なブランド力を維持していくには、決して他にはない、圧倒的な経験を顧客にさせる。
顧客はアート体験をしていると思いながら、知らず知らずエルメスにはまっていく、、、。
ブランドのカタログなどを見ても強く記憶に残らないが、この体験を通して見た商品はなぜか鮮明に覚えている。(しかも、値段をググった!)
もう、さすがとしか言葉が出てこない。

余談ではあるが、会場近くで商品販売をしないのも、賢い作戦だ。うっとりして出てきた時、そこに商品売場があるとゲンナリするものだ。この時の興奮状態を思えば、売り場があったらすぐにスカーフくらいは買っただろう(笑)。しかし、そんな安売りをしないのが、上質で唯一無二のエルメスたる所以だ。

この記事を書いた人

tomoko3

現代のエビデンス社会では認められていない本物の「自然の理」を実践中。
それは、水や光に学ぶことであり、なんにでも応用できる。
室内水光栽培士/結界士